by nkoda

【統計検定1級対策】コーシー分布には積率母関数・期待値・分散が存在しないことの証明

目次

前書き

 統計検定1級対策として本日はコーシー分布を紹介いたします。 コーシー分布はのちに紹介する$t$分布の自由度が1の時に従う分布で、積率母関数も期待値も分散も存在しない不思議な分布です。 コーシー分布の形状は正規分布に非常に似ておりますが、正規分布よりも裾が厚い分布であると言われています。 裾が厚いというのは、正規分布は平均から遠く離れた部分はあまり出現しませんが、コーシー分布はそのような値でもそれなりの頻度で出現するということを表しています。

 それではいつものように結論を見て導出の詳細を見ていきましょう。

初めに結論

項目
$x\in \mathbb{R} $
確率関数 $f(x)=\frac{1}{\pi}\frac{1}{1+x^2}$
積率母関数 存在しない
平均 存在しない
分散 存在しない

平均・分散・積率母関数が存在しないことの証明

 証明はまず期待値が存在しないことを証明します、 そうすることで分散は$V(X)=E(X^2)-(E(X))^2$のように期待値を使って書かれるため存在しないことが証明されます。 積率母関数については$M_X(t)=E(e^{tX})=E(1+tX+\frac{1}{2!}(tX)^2+\cdots)=0+tE(X)+\cdots$のように 定義からマクローリン展開を使用することで一次のモーメントを利用していることが分かります。 一次モーメントの期待値が存在しないので積率母関数も存在しないということが分かります。
 それでは期待値が存在しないことを証明しましょう。

$$ \begin{eqnarray} E(X)&=&\int_{-\infty}^{\infty}x\frac{1}{\pi}\frac{1}{1+x^2}dx\\\
&=&\frac{1}{\pi}\lim_{ a\to\infty\\\ b\to\infty}\int_{-b}^a\frac{x}{1+x^2}dx\\\
&=&\frac{1}{\pi}\lim_{ a\to\infty\\\ b\to\infty}\left[\frac12\log{(1+x^2)}\right]_{-b}^a\\\
&=&\frac{1}{2\pi}\lim_{ a\to\infty\\\ b\to\infty}(\log{(1+a^2)}-\log{(1+b^2)})\\\
&=&\frac{1}{2\pi}\lim_{ a\to\infty\\\ b\to\infty}\log{\left(\frac{1+a^2}{1+b^2}\right)} \end{eqnarray} $$

ここまでの式変形を紹介しましょう。 第二式から第三式は定数を前に出し広義積分なので変数$a,b$を導入し極限を含む形にしました。 そのあとは積分部分の高校数学レベルの計算を丁寧に実施しました。
 証明のみそはここからです、導入した$a,b$は最終的にどちらも$\infty$に飛ばすので、 同じ速さで飛んでいくならそれぞれ自由に値を入れてもいいわけです。 つまり$a=b$と$a=2b$は$a$も$b$も同じ速さで$\infty$にいくので問題ありません。 この二つを代入してみると$E(X)$はどうなるでしょうか?

$a=b$の時、 $$\begin{eqnarray} E(X)&\propto& \lim_{b\to\infty}\log{\left(\frac{1+b^2}{1+b^2}\right)}\\\
&=&\lim_{b\to\infty}\log{\left(\frac{\frac{1}{b^2}+1}{\frac{1}{b^2}+1}\right)}\\\
&=&\log{1} \end{eqnarray} $$

$a=2b$の時、 $$\begin{eqnarray} E(X)&\propto& \lim_{b\to\infty}\log{\left(\frac{1+4b^2}{1+b^2}\right)}\\\
&=&\lim_{b\to\infty}\log{\left(\frac{\frac{1}{b^2}+4}{\frac{1}{b^2}+1}\right)}\\\
&=&\log{4} \end{eqnarray} $$

広義積分に解が存在しないので一次モーメント、つまり期待値$E(X)$は存在しないということです。
 ここまでの証明は共立出版から出ている小寺平治の明解演習 数理統計学を参考にしました。 この演習書はとても典型的な数理統計の問題演習ができますのでお勧めです。

まとめ

 統計検定一級で使う確率分布で積率母関数が存在しないものはコーシー分布くらいです。 ベータ関数や超幾何分布はきれいな形で書けないだけで積率母関数は存在していることに注意してください。 積率母関数や分散が存在しないことは、期待値である一次モーメントが存在しないことを利用すれば簡単にできることも紹介しました。 肝心の期待値が存在しないことは、広義積分が有限確定値に収束しないというストーリーでした。

 それでは、統計検定1級を目指されている方や統計を勉強している方に良い情報提供となることを願って本日は失礼します。

参考文献

  • 日本統計学会編, “日本統計学会公式認定 統計検定1級対応 統計学”, 第6刷, 2013, 東京図書, ISBN 978-4-489-02150-3.
  • 藤澤洋徳, “確率と統計”, 第9刷, 2006, 朝倉書店, ISBN 978-4-254-11763-9.
  • 小寺平治, “明解演習 数理統計”, 初版30刷, 1986, 共立出版, ISBN 978-4-320-01381-0.