【統計検定1級対策】対数正規分布の期待値・分散の導出
目次
前書き
本日は対数正規分布に関して紹介いたします。 こいつちょっと注意でして、名前から推測すると痛い目を見ます。 $Y\sim N(\mu,\sigma^2)$の時、$X=exp(Y)$が従う確率分布を対数正規分布といいます。 つまり、対数正規分布に従う確率変数$X$の対数が正規分布に従うのです。 正規分布の対数が従う分布ではないのでくれぐれもお間違え無いようにご注意ください。
それではいつものように結論を見て導出の詳細を見ていきましょう。
初めに結論
項目 | 値 |
---|---|
台 | $x\in \mathbb{R}_{>0}$ |
確率密度関数 | $f(x;\mu, \sigma^2)=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\frac{1}{x}\exp{\left(-\frac{1}{2\sigma^2}(\log{x}-\mu)^2\right)}$ |
積率母関数 | きれいな形で書けない |
平均 | $\exp{\left(\mu+\frac{1}{2}\sigma^2\right)}$ |
分散 | $\exp{(2\mu+\sigma^2)(\exp{(\sigma^2)}-1)}$ |
導出
確率密度関数
今回は確率密度関数は変数変換によって導出できますので、結果を忘れてしまっても導出できるので安心ですね。 先日やりました確率変数の変数変換の一変数バージョンです。
$Y\sim N(\mu, \sigma^2)$なので$f_Y(y)=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(y-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}$。 $X=\exp{(Y)}$なので$Y=\log{(X)}$となるので$\frac{dy}{dx}=\frac{1}{x}$。 変数変換の合言葉「分布関数求めて微分」をやっていきます。
$$
\begin{eqnarray}
F_X(x)&=&F_X(X\le x)\\\
&=&F_Y(Y\le \log{x})\\\
&=&\int_{-\infty}^{\log{x}}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(y-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}dy\\\
&=&\int_{-\infty}^{x}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(\log{x}-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}\frac{1}{x}dx\\\
f_X(x)&=&\frac{d}{dx}F_X(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(\log{x}-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}\frac{1}{x}
\end{eqnarray}
$$
積率母関数
積率母関数はきれいな形で書けないので今回は導出は無しです。
平均
今回は積率母関数がうまく求められませんので直接定義通り計算していきます。 初めにネタばらししますと、$x=e^u$と変換すると積分範囲が$(0,\infty)\to(-\infty,\infty), \frac{dx}{du}=e^u$となり、自然対数$e$の指数部を平方完成してあげることで正規分布の全範囲での積分となりきれいに消えてくれるというわけです。 まぁ、$(\log{x}-\mu)^2$の形を見たら上記のように置換すれば正規分布の形になるなーってのは何となく分りますよね。 実際に式変形していきましょう。
$$
\begin{eqnarray}
E(X)&=&\int_{0}^{\infty}x\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(\log{x}-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}\frac{1}{x}dx\\\
&=&\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(u-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}e^udu\\\
&=&\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{1}{2\sigma^2}(u-(\mu+\sigma^2))+\frac{1}{2}(2\mu+\sigma^2)\right)}du\\\
&=&\exp{\left(\frac{1}{2}(2\mu+\sigma^2)\right)}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{1}{2\sigma^2}(u-(\mu+\sigma^2))\right)}du\\\
&=&\exp{\left(\mu+\frac{\sigma^2}{2}\right)}
\end{eqnarray}
$$
すでに本ブロブで紹介しました、ガウス分布での積率母関数の導出をマスターしている皆様からすればなんとも簡単な式変形でしたね。
分散
分散は$E(X^2)-(E(X))^2$で求めることができますので、二次のモーメントを求めます。 こちらも先ほどと同様の置換を行い、平方完成することでガウス分布の全範囲での積分となりきれいに消えてくれます。 それでは実際に式変形をしていきましょう。
$$
\begin{eqnarray}
E(X^2)&=&\int_{0}^{\infty}x^2\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(\log{x}-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}\frac{1}{x}dx\\\
&=&\int_{-\infty}^{\infty}e^u\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{(u-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)}e^udu\\\
&=&\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{1}{2\sigma^2}(u-(\mu+\sigma^2))+2(\mu+\sigma^2)\right)}du\\\
&=&\exp{2(\mu+\sigma^2)}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\exp{\left(-\frac{1}{2\sigma^2}(u-(\mu+\sigma^2))\right)}du\\\
&=&\exp{(2\mu+2\sigma^2)}
\end{eqnarray}
$$
なので分散は、
$$
\begin{eqnarray}
V(X)&=&\exp{(2\mu+2\sigma^2)}-\left(\exp{\left(\mu+\frac{\sigma^2}{2}\right)}\right)^2\\\
&=&\exp{(2\mu+\sigma^2)}(\exp{(\sigma^2)}-1)
\end{eqnarray}
$$
まとめ
名前がちょっとややこしい対数正規分布について紹介しました。 期待値や二次モーメントの計算では、正規分布にするための変数変換は分かりやすいですし、変換後はガウス分布の時と同様に進めていけばいいので導出は非常に簡単だったのではないでしょうか? 注意すべきは、「対数正規分布に従う確率変数の対数が正規分布になる」という部分だけ正確に覚えてあげる点でしょう。
それでは、統計検定1級を目指されている方や統計を勉強している方に良い情報提供となることを願って本日は失礼します。
参考文献
- 日本統計学会編, “日本統計学会公式認定 統計検定1級対応 統計学”, 第6刷, 2013, 東京図書, ISBN 978-4-489-02150-3.